札幌在住グラフィックデザイナーに聞く、「札幌でデザインすること」の意味(後編)

働き方の多様化や、新型コロナウイルスの影響により進んだリモートワーク化によって、働く場所がもたらす価値について考える機会が増えたように思います。筆者は札幌市立大学にてデザインを学んでいる学生で、現在就職活動中。このまま札幌で仕事を探すのか、それとも東京を経験すべきなのか、はたまた全く知らない土地に飛び込むのが吉なのか?と思い悩んでいます。
そこで、札幌にてグラフィックデザイナーとして活躍されている川尻竜一さん(デザ院株式会社/写真左)と新林七也さん(AMAYADORI/写真右)に、AMAYADORIさんのオフィスをお借りして「札幌でデザインすること」についてお話を伺いました。
本記事は後編となります。ぜひ前編もあわせてご覧ください。
川尻竜一(かわじり・りゅういち) | グラフィックデザイナー。1982年北海道留萌市生まれ、札幌在住。デザインプロダクション「デザ院株式会社」に所属し、広告などのアートディレクションおよびデザインを手がけるほか、自身の平面図画作品も制作。2017年より、大阪にてグループ展「発展」に参加。2020年、初の個展「果報」を開催。受賞歴に、札幌ADC グランプリ、札幌ADC 新人賞、札幌ADC 6部門 金賞、札幌ADC 審査員チョイス賞、GRAPHIC DESIGN IN JAPAN 仲條正義 This One! 選出、東京TDC賞 入選、世界ポスタートリエンナーレトヤマ 入選、イデオグラフィア ポズナン国際グラフィックデザイン祭 入選、台湾国際グラフィックデザインアワード 入選 ほか多数。JAGDA会員。札幌ADC会員。自身の作品販売の場としてオンラインショップ「ストア図」を運営。
新林七也(しんばやし・ななや) | グラフィックデザイナー。1995年北海道美唄市生まれ。2016年デザインプロダクション「AMAYADORI」に入社。パッケージ、VI、広告などの紙媒体を中心に制作をしている。受賞歴に、札幌ADC 準グランプリ/新人賞/部門賞/審査員チョイス賞、GRAPHIC DESIGN IN JAPAN 入選、東京TDC賞 入選、GoldenBee入選、ショーモンポスターフェスティバル入選、北海道のおいしいつながりパッケージデザイン展 グランプリ など。JAGDA会員。札幌ADC会員。

嫌だったら20年もいないと思います。
―札幌でデザイナーとして活動する中で、札幌の魅力を感じることはありますか?
川尻:住んでいるのに、よく分からないというのが正直なところです(笑)。
―距離が近すぎて、ということでしょうか。
川尻:自分がデザインをするための場所として、意図的に札幌という街を選んだわけではないからだと思います。結果として札幌にいるだけというか。でも進学のため札幌に来てからあっという間に20年…。街の広さとか、自然の量とか、スピード感とか、色々な面で自分にとってのちょうど良さみたいなものがあるのかもしれないですね。
新林:ほぼ一緒ですね。ちょっと街中から離れれば自然もあるし。
川尻:今回の取材が「札幌って良いな」と感じてもらうためのものだとすると、こんな回答はどうかと思いますよね(笑)。けどまあ、ずっと札幌から離れようとしていませんからね。嫌だったら20年もいないと思います。
新林:なるほど。
川尻:はっきり好きと言えるような決定的な何かは思い浮かびにくいのですが、決して嫌いではないんです。もしかすると、そういう部分を色んな人が過ごしやすいと思うのかも。
―何か突出した魅力があると、逆にそれに合わない人もいるように思います。
川尻:確かに。
新林:洗練された新しいお店や商品もあれば、逆にデザイナーが関わっていないような昔ながらのレトロなお店もあって、良い意味で何でもあるような印象があります。
―逆に、札幌にデメリットを感じることはありますか?
新林:やっぱり東京に行かないと観ることができない展覧会などは多いですね。あとは情報や流行が少し遅れて入ってくる印象があるので、自分でキャッチしないといけないなとも思います。
川尻:そうそう。こっちからじゃ電車賃だけでは観に行けないもんね(笑)。その点はいつも痛感しています…。でも僕はデメリットだと言い切れない部分があるとも思っているんです。それでも知りたい、それでも観に行きたいと思うのには相当なデザイン好きパワーを必要とするはずです。もちろん経済的な負担も電車賃とは比べ物にならないわけで。
そういう意味では、今の自分がどれくらいデザインを好きなのか、その時々のバロメーターみたいにしながらデザイナーとしての日々を過ごせることは悪くないとも思えます。
―遠くにあるからこそ、情報を自ら掴みに行く人は伸びるといった感じでしょうか。
川尻:そういうこともあるかもしれないなと。
新林:デメリットが逆に良いところでもあるってことですね。あとは同業種の方とお話させていただくと、色々な働き方をされている人がいらっしゃる印象があります。各々のペースで働きやすい土地なのかなと思います。
―そういった空気感は、制作物に影響を及ぼしたり、いわゆる「らしさ」に繋がっていたりするのでしょうか。
新林:場所や環境の影響はあるとは思いますが…。審査員の方は結構「北海道らしい」って言いますよね。
川尻:そういった講評やコメントをいただくことは多いよね。
新林:川尻さんは北海道らしいという感じではないかなと思いました。
川尻:そうだと思う(笑)。 全然意識していないというか、そもそも「北海道らしいデザイン」というと、どういう部分を指しているのかピンと来ないんです…。表層的な北海道らしさというのはあるだろうけど、デザインする題材の問題に思えます。
新林:たしかにデザイン自体の特色というよりは、題材やクライアント自体が自然、食、文化など北海道的なものが多いので、それらが集まったときに「らしさ」を感じるのかなと思います。
川尻さんは、北海道を題材にした仕事も結構手がけていらっしゃいますよね。題材としては扱っているけれど、デザイン的には北海道らしさを感じないのですが、それは意識されているんでしょうか。
川尻:あえてそうしているつもりはないんだけど、自分は削ぎ落とすことによって、ものごとの本質やメッセージが浮かび上がってくるようなデザインが好きだから、結果としてそういう印象を与えているのかも。北海道のマラソン大会の仕事でも色面構成という手法を使ってデザインをしたことがありますが、北海道の豊かな自然だったり、ランナーの熱気や観客の声援だったりと、観る人に自由にいろんなことを思い描いてもらえるような余白をつくることは意識していましたね。

―それでは最後に今後の展望をお聞きしてもよろしいでしょうか。
川尻:できれば自分もかっこいい存在に…なりたいですけど、言いにくいですね(笑)。
新林:すでにそうなっているとも思いますけど。
川尻:いやいや。全然まだまだなんですよ。でも、新林くんにそう言ってもらえるのはうれしい。いつまでも他人任せにしないためにも、まずは自分の目標に向かって頑張ります。
新林:自分はなるべく沢山のものに触れて引き出しを増やし、媒体や仕事の種類に関わらず良いデザインをできるようにしていきたいです。
―本日はありがとうございました!

取材を通じ、おふたりからローカルのデザインシーンを盛り上げたいというお気持ちをひしひしと感じました。情報の新鮮さやインプットの質・量を考えると首都圏の方が圧倒的に有利。しかし、あらゆる面で感じる「丁度良さ」や、自分がいかにデザインを好きか確かめつつ活動できるところ、そして様々なクリエイターが互いに高め合う地方ADCの存在など、札幌というまちで、ひいては地方でデザイナーをすることに確かな意味を感じました。川尻さん、新林さん、本当にありがとうございました。
インタビュー/文/写真 札幌市立大学 デザイン学部デザイン学科 4年 三上隼人



