時空を超えた、おくりもの。写真家・川島小鳥が語る、写真集の魅力とは?
川島小鳥さんの写真集はどれも、綴じ方やおまけなど、可愛い工夫がギュッと詰まっている。ページをめくるたび、ワクワクしながら本を綴じる彼の表情が思い浮かぶのだ。小鳥さんの脳内を一度覗いてみたい。どのような思考回路を巡って、これほどまでにプリティーな1冊が生まれるのだろうか。そこで私は、自分の本棚に並ぶ小鳥さんの写真集の中から「装丁」という視点で3冊を選び、それぞれのこだわりをご本人にインタビューすることにした。集合は都内のファミリーレストラン、ピザを片手に繰り広げられる本の世界は、想像以上に色鮮やかだった。
ー 写真集の制作に関して、小鳥さん自身も深く携わっているそうですが、それはどうしてですか?
僕は、もともと写真集がすごく好きなんです。
高校生の頃、初めてちゃんと写真に触れたのが写真集でした。展覧会の写真作品とか、1枚で完成されている写真とはまた違って、1冊の本の中でいろんなシークエンスがあったり、本そのものがすごく凝った造りだったりして。そういうところから写真って面白いなと思って、自分でも撮り始めました。最初のきっかけがそれだったので、いまだに作品を作る時に完成形として目指しているのが本。本でしか表現できないものがあるなと感じています。
ー 写真集を自分で作るようになったきっかけはありますか?
それこそ学生の頃から、撮った写真を自分で印刷して綴じたりしていました。最初の『BABY BABY』という写真集も、元は自分用と被写体になってくれた子のために手作りしたものなんです。藁半紙に印刷したかったから、コンビニのコピー機に勝手に入れたりして(笑)。これを発表するしないに関わらず、撮り溜めたものを手作りの本にするのが昔から好きですね。
ときめく装丁 3選
私が選んだ3冊をお持ちし、それについて深くお話ししていただきました。
『飛びます』
ー まず、この写真集が作られたきっかけを教えてください。
3年くらい前から最近まで、熱海に部屋を借りて東京との2拠点生活をしてたんですよ。僕はけっこう、場所によって作品を作ることが多くて。例えば『未来ちゃん』は佐渡島という島に通って撮り、『明星』は台湾で撮りました。場所を変えると自分の気持ちも変わるし、その土地とコミュニケーションをとりながら作っていくのがおもしろいんです。あ、ピザ食べますか?
ー いただきます(笑)!
熱海で暮らしているときに、友達から面白い空き部屋を見つけたとの連絡があって。そこは建設会社の最上階で、すごく素敵な場所だったんです。ここで何かやりたいなと思って、画家の小橋陽介くんと「飛びます」という二人展を開催しました。その展示がきっかけとなって作った、自費出版の1冊です。
ー デザイン名に小鳥さんの名前がありましたが、レイアウトなども全てご自身でされたのですか?
そうです。入稿は熱海の友達がやってくれたんですけど、レイアウトは全部僕がしています。小橋くんのどの絵を使いたいかなど、写真と絵の組み合わせも考えました。
ちなみにこの写真集は、コデックス装にしたいと、作る前に印刷所へ相談しに行ったんです。コデックス装は糸が見える装丁だから、その糸の色も全て自分で決めたり。紐の色だけでも、100種類ぐらいあるんですよ〜。
ー コデックス装にこだわった理由はありますか?
はい。本って、絶対に180度は開かないじゃないですか。コデックス装だと180度開くという利点があって、それがいちばんの理由かなあ。『未来ちゃん』も実はコデックス装。
ー 確かに、見やすい! コデックス装の存在は以前からご存知で?
はい。やっぱり興味があるから、いろんな本を見た時に自然と「これどうやって綴られているのかな」とかチェックしたりしています。
ー 今回はコデックス装にしたい!とのことでしたが、作りたい写真集のイメージなどは一番最初に思い浮かぶのですか?
そうですね。こんな作品を作りたい!っていうモヤモヤとしたものを形にするには、先に伝えたいイメージがあって。『飛びます』だったら、ちょっと手作りっぽい感じを出したいなとか。本って普通、汚れないように表面にニスが塗ってあるんです。けど、あえてニスをつけないままにしてみたり。あと、カラーセロハンを自分たちで切って、貼り付けてみたり。せっかく自費出版だから、自分たちでできることを色々やってみました。
ー オモロイ…どうなってるのかなって気になってました。
こういうのって多分、おっきい出版社だとまずできないです。外注したら、1冊あたりの金額が高くなるし。それを自分たちでやることで、制作費を抑えることができる。なおかつ、たくさん作るわけじゃないから、自分たちでできることがいっぱいあります。
ー ピザ、食べちゃいますね。
僕、3枚も食べちゃった(笑)。
ーいやいや! 貴重な1枚をありがとうございます。こだわりが凝縮された1冊だと思うのですが、特に一押しのポイントはありますか?
レイアウトが全部、細かく違うところです。縁を無くしてみたり、いっぱい縁を作ってみたり。全部統一してあるデザインも好きなんですけど、この本はもっと自由に、玉手箱っぽい感じにしたかったんです。
あとここは、アンカットっていう手法で、わざとギザギザさせてるんですよ。本って仕上げの寸法に合わせて周囲をバシバシ切り落とすことが多いんですけど、それをあえてしない、バサバサな感じにしたくて。今回それを上面と横にお願いしてたら、印刷所の人が間違えて下面と横になっちゃったりして(笑)。けど、それも面白いかな〜って。
『violet diary』
ー では、2冊目に移ります。こちらも、制作のきっかけを教えてください。
去年の秋にTOKYO ART BOOK FAIRから参加のお声がけをいただいて、その時に作ったものです。アンジェラ・ユンさんっていう香港に住んでる女優さんを、3年ぐらい撮り溜めていて。その子の写真で1冊作ろうと思ったのが最初のきっかけです。
ー こんな本に仕上げたかったなど、最初のイメージはありましたか?
僕は1人の人を長期間撮ることが多くて、その人の成長や変化が感じられるような1冊にしたいという気持ちがありました。アンジェラちゃんの面白いところは、世の中のことや自分自身のことにはっきりとした意見を持っていること。写真だけだとそれが伝わらないから、彼女の綴った文章を一緒に載せてみました。僕からの視点じゃないですか、写真だけだと。でも急にその子本人が語り出すっていう、一方通行じゃない感じ。本のサイズ感も日記帳をイメージしています。だからタイトルもdiary。
ー 本の中には日付も書いてありましたね。本の形をダイヤ型にしているのはどうしてですか?
これは「キラキラした、宝石みたいな本」にしたいと思って。それで、ダイヤモンドみたいに削り出したらどうかなと思いつきました。普通に製本した長方形の本を、ガスガスと切り落として作っています。僕はこうやって、普通の本に+1アイデアを足すのが好きです。今まで自分がやってないことや、できれば今まで誰もやってきていないことを1個やりたいなって、毎回本を作るときに思っています。
ー 並んでみたときに、あれ?と思わせるカタチですね。ちなみに綴じ方は?
割と普通のPUR製本。けどノリがすごく進化していて、開きが良い。紙は2種類使っていて、藁半紙っぽいのと、マットでしっかりしているのを。
ー 2種類の紙を使い分ける理由はありますか?
途中で手触り感のある紙に変えることで、「人の日記帳を読んじゃった」みたいな、あっ!ていう気持ちの変化を作っています。紙って8ページぐらいで折って切るから、8とか16ページごとに変えられるんですよ。だからこうやって、紙で遊ぶのも好きです。
ー 面白い…! あと、この余白の取り方も気になっていました。
あっそう、ちょっとズレてる感じ。それこそ最初はデザイナーの坂脇慶くんには「もっと縁を取りなよ」って言われた気がするんですけど、もっと手作りっぽくしたかったから。
ー デザイナーさんとは密にやりとりされているのですね。
はい。担当してもらうデザイナーさんも基本僕からお願いしています。作品ごとに、この人が良さそうだな〜と。
ー ちなみにこの本の慶さんは、どうして選ばれたのですか?
僕は銀杏BOYZのジャケットをもう15年やっていて、慶くんも10年くらいそのデザインを担当しているんです。この本を作る前から、慶くんは僕が撮った写真をずっと見てくれていたから、アンジェラちゃんの本を作るなら彼しかいないなと思いました。
ー 銀杏BOYZのジャケットといえば、小鳥さん!どれも最高です…。2冊目の解説もありがとうございました!
『my little blossom』
ー それでは最後の本に移ります。これ、綴じてた輪ゴムの紐が切れちゃって、クリップで留めてます(笑)。
可愛い〜似合ってる。
ー これは『おはようもしもしあいしてる』のおまけのzineですね! おまけってどういうことだろう?と気になっていました。
あ、そうそう。これは本当に時間がなかったんです。制作期間は4日間くらい、撮影も含めて。けどすっごい楽しかった。
ー えええ!?
『おはようもしもしあいしてる』は、僕が初めて写真を撮った頃から2020年までの全てが詰まっていて、すごい量と時間をかけた1冊なんです。そこで蔦屋書店さんから特装版を出したいっていうお話をもらって、おまけをつけることになりました。めちゃめちゃ少ない予算で、けどすごい特別なものをつくろうってなった時、20年かけて撮った写真集と、2日で撮った写真集とを一緒にしたらどうかなと思ったんです。すごい時間をかけたからって良い訳じゃないし、パッと瞬発的に作ったものがすごく面白かったりするから。長さと短さ、重さと軽さ、両方の写真の良さが詰まってます。
普段はフィルムで撮ることが多いんですけど、すぐ入稿したかったからデジカメで撮影していて。あと、モノクロ一色だと安いからっていう理由でモノクロにして。大阪で撮った次の日に東京、東京で撮った次の日にデザインして、入稿!みたいな。
ー …超スピード!! 早さを感じます。
そうそう。だから4月1日発売に間に合わせたのに、その年の桜が写ってるっていう(笑)瞬間を閉じ込めたね。
ー 綴っていない状態、輪ゴムだけで留めているというのが特徴的だなと思っていたのですが。この装丁へのこだわりはありますか?
これはデザイナーの米山菜津子さんと、作る直前に会って相談して決めました。レイアウトは全部米山さんが2時間ぐらいでやってくれて。天才肌だよね。
ー このあえて綴じず、輪ゴムで留めるというのも、早さ重視からのアイデアですか?
本当は、ピンクの糸で綴じたかったんです。けど入稿した後に、分厚すぎて綴じられないと言われてしまって、輪ゴムになりました…。元々は糸かがり綴じっていう、ミシンでガガガって綴じる方法だったんですけど。
ー そうだったんですね!あと個人的に、紙質がすごく好きで。表紙は表面がテカッとしているのに対して、 中の紙はサラッとしている感じ。これも小鳥さんが選ばれたんですか?
はい。PPっていう、小説に使われるような、すごくピカピカした紙を使っています。ざっくりとしたイメージは海外の本。どこの国のものかわからない感じ。
PPって、紙の上から透明ビニールみたいなのを貼ったものなんです。だいたいの本には貼ってあるかも。元はヴァンヌーボみたいな画用紙のような質感をしていて。印刷したときは全部ヴァンヌーボで、表紙だけ上からPPを貼っています。元々ツルツルの紙にPPを貼った時にはまた違う質感が出ると、印刷屋さんが言ってました。なんでも貼れるっちゃ貼れるってことですね。
ーそんな加工方法があるのですね! 私このzine、本当に好きだ…。
いや〜そういうことですよね。20年かけたのよりも、リラックスしているからかな?楽しい感じがします。
締めのお言葉
ー 小鳥さんが思う、写真集の魅力を教えてください。
本というのは、時空を超えられると思うんです。例えば、僕が高校生の頃はじめて出会った写真集は、当時とは違う時代のものでした。本として残しておくことで、いつか誰かが手にとってくれるかもしれない、どこかの古本屋や食堂の本棚でね。自分もそうだったから。
あとは、1対1のコミュニケーションができること。写真集って、いつ見るかによって印象が違うと思うんです。ある時見たら全然興味がなかったのに、自分が成長した時、変化した時に見返してみると、こんな良い本だったんだ!って気付いたりして。自分が生み出したものだけど、また別の命を持って誰かとコミュニケーションができる、すごくあたたかいものだなと思っています。ふふふ、喋りすぎ(笑)?
ー いやいや! 今は誰の目にもとまらなくても、時代を超えて、偶然食堂の片隅で見つけてくれる人がいるかもしれない…そんな出会いを想像するだけで、なんだかワクワクしますね。小鳥さんは本の制作中、一番ワクワクする瞬間ってありますか?
僕は決まったテーマから作品を作っているわけではなくて、すごく漠然としたイメージだけが一番最初にあるんです。作品を作るってことは、それを形にすることじゃないですか。そのモヤモヤっとしたイメージが、パズルみたいにパチっとはまる瞬間。粘って粘って、こういうことだったんだ!とやっと気づく一瞬があって、その時ですかね。
ー パズルの例え、すっごくわかります! 名残惜しいですが、これが最後の質問です。小鳥さんにとって、写真集とは?
自分と読んでくれる人への「時空を超えた、おくりもの」かな? ふふっ。作った瞬間から、半分自分のものじゃ無いと思っています。作っている最中は、こういうのを絶対作りたい!って感じで、自分視点でしかないけれど、できた瞬間に自分だけのものじゃなくなる。
ー 「時空を超えた、おくりもの」! 言葉にするの、すっごくお上手で…。
40歳だもん。本来は苦手なんだけどね。
ー バシッと決まりました。あ〜〜〜〜めっちゃ楽しかったです!
こちらこそ、楽しかったです!
取材・文・写真/金沢美術工芸大学 環境デザイン専攻 3年 深田詩織




