2020-11-30

アナログ印刷技術、活版印刷の魅力

初めまして、愛知県でデザインを学んでいる北園といいます。

私は学部の4年生で現在、卒業制作に取り組んでいます。テーマは活版印刷の新しい表現についてです。「PLINTING LAB.」と題し、印刷所さんに協力してもらいながら、これまで活版印刷の実験を行ってきました。その中で見えてきたアナログだからこその魅力や、他の印刷でできない面白さを本記事で紹介してゆこうと思います。

活版印刷最大の特徴、紙面にできる凹凸

私が研究している活版印刷は樹脂や亜鉛で作った版にインキを盛り、紙に押し当て印刷するという技術です。仕組み自体は単純で、私たちが普段使うハンコに似ています。ただ、活版印刷機の圧力は人が刷る力よりも強いので、刷り上がった印刷物を見てみると、紙面上に版の押し跡が残ります。この押し跡こそが活版印刷の最大の特徴であり、魅力のひとつだと私は思っています。

力の込められた凹凸はささやかな陰影をつくり、デザインしたデータの平面的な美しさ以上の味わいを生み出してくれます。触れたときのポコポコとした感触は心地よく、なんとなしに紙面を撫でてしまいます。見た目の面白さと触れた時の面白さ、どちらの魅力も増幅させてくれる印刷技術なのです。

余談なのですが、活版印刷はもともと文書を大量生産するために開発された技術で、強く圧縮してしまうと紙が弱くなってしまうため、私が魅力に感じている凹凸はない方が良いとされていました。そのため、当時の印刷職人は紙面に凹凸をつけず、フラットに印刷できる人ほど腕が良い、とされていたようです。

簡単に文書を大量印刷できるようになった現代では、当時とは反対に凹凸の面白さが注目されています。時代が流れていくことによって、そのものの価値が変わることは、往々にしてあることですが、良くないとされていたことが魅力に感じられるのは、とても興味深いことです。

活版印刷機の簡単な仕組み

紙との相性によって発現する独特なかすれ

活版印刷のもうひとつの魅力として、紙との組み合わせによって現れる「かすれ」があります。このかすれは、基本的にはコントロールすることができません。その紙にベタで印刷するとそのかすれが発現する、というような固有の特徴が備わっているのです。

活版印刷は圧力によって印刷する技法なので、紙の持っている凹凸にも影響を受けます。紙の表面の凹凸が大きければ大きいほど、かすれは大きく発現します。紙と組み合わせるだけで、下図のような豊かなテクスチャが生まれるのです。フワフワした紙やさらさらした紙など、たくさんの紙たちは手触りからは想像できないようなグラフィックを生み出してくれます。紙に直に現れるテクスチャありきのグラフィックデザインが叶うのは、活版印刷ならではです。

紙によって現れるテクスチャの違い

完成物の飛躍性

私が個人的に1番面白いな、と感じる活版印刷の魅力は、完成したものを想定しきれないところです。普段のデザインツールを使って、データを作り、デジタル印刷で出力する、というフローだと、ある程度そのデータを忠実に再現することができるので、完成物への驚きみたいなものは少ないように思います。

活版印刷は先にも述べたように、グラフィックデータに加えて圧力による凹凸、紙の表情、印刷面のテクスチャ、というたくさんの情報が加わります。それらの組み合わせでどんな印象になるのか、これはなかなか想像できません。さらには、当日の湿度だったり、印刷機の調子だったり、職人さんの体調だったりと、デジタル機器を動かして調整してゆく印刷法とは違い、活版印刷だからこその要因が絡んできます。

そこには無限大の余白と可能性が満ちていて、想定していたよりも魅力的でないものが出てくることもあれば、自分の作ったデータの何倍も良いものが出てくることがあります。その時の感動と興奮が私は好きです。もちろん、よくない方に振れ幅が傾いた時には、地道に校正を繰り返したり、デザインを見直したりすることが必要です。ですが、その部分も含めて面白いです。ある種の不自由さが、最終的には味わいとなってデザインに内包されるような、独特な美しさがあります。計算づくめのデザインではなく、実験的な作品を作りたい、そんな期待に活版印刷は応えてくれるのです。

完成物の飛躍要因

活版印刷の作例

実験をしてゆく中で、活版印刷にたくさんの気づきを得ることができたので、名刺を新調してみました。紙の手触りや、文字の活版による圧力が感じられるように、シンプルな構成にし、ワンポイントとして、正円にノイズを加えたグラフィックを添えたデザインです。

正円にはかなり細かなグラフィックを加えたのですが、活版印刷はちょうど良い再現性で出力してくれました。ひとつひとつの点が見えるところと、潰れた面の組み合わせが面白い、良いグラフィックになったと思います。触れると見た目よりもかなり凹んでいるので面白い感触です。

名刺のグラフィックデータ
活版印刷で刷った名刺

おわりに

今回の記事で紹介している活版印刷の魅力については、私が協力していただいている印刷所さんとの制作の中で、発見したものたちです。私は実際に印刷所へ向かい、立会い、実験を行いました。その経験は、インターネットで入稿し、校正が届き、完成物が郵送される、といったフローでは得られない学びの時間でした。職人さんがインキの盛りを調整している姿や、印刷物が生まれる瞬間、活版印刷機の動き、全てに気づきや感動があります。

もし、活版印刷に興味が湧き、やってみたいと思った方がいましたら、実際に印刷の現場に赴き、立会うことをお勧めします。きっと素敵な出会いが生まれると思います。

執筆 : 愛知県立芸術大学 美術学部 デザイン学科 4年 北園 大和

関連記事

    関連記事はありません